私、鈴木学はジャズの修業時代、時折自らリーダーとなってジャズライブに出演してはいましたが、主に他の楽器のバンマスのもと、サイドメンとしてライブ活動をしていました。多い時で、同時に6,7バンドに所属していたように記憶しています。
ベテランバンマスから学ぶ
ジャズ業界では自ら演奏の報酬が得られる仕事を探してきて、バンドのメンバーを集め演奏をリードする「バンマス」がいます。職人仕事で言うところの「親方」みたいな感じです。サイドメンとは、このバンマスに従って演奏に参加するメンバーのことを言います。
若き日の私が、サイドメンとしての演奏活動を中心にしていたのは、主に勉強、修業のためです。当時の私はとにかく、自分よりも演奏経験が長く、優れた才能、技能を有した奏者との演奏機会を持ちたいと考えていました。もちろんそれは、自らがかなり厳しい状況に置かれることを意味します。自分の未熟さが露わになりますし、求められるものも高度になります。
しかしそれでも例えば、自分と同じくらいの腕前の奏者とばかり演奏していると、腕前が上がりにくくなる。ただ演奏を楽しむだけであればそれでもよいのだけど、その環境で満足するのは絶対に嫌だと思ったのです。
どんな楽曲も吹きこなす!
サイドメンとして演奏の現場(例えばジャズライブハウス)に赴くと、その日のバンマスが演奏予定の楽曲の譜面を用意しています。「マナブ!これを演奏したいけど、いけるか?」、「はい。大丈夫です。テンポとか雰囲気はどんな感じにしますか?」・・。
譜面を目の前に、このように会話を交わしながら、バンマスが求めているサックスの音のイメージを探っていきます。この当時、事前に参考音源を聞けることほとんどなかったです。もちろん、普段からできるだけ様々なジャズのレコード(!)、CDを入手し聴く事で、ジャズの楽曲を多数記憶するようには心がけていましたが、ベテランのバンマスほど、皆が知らないような曲を持ってくるのです!
もちろん、バンマスが望むような、もしくは予想を超えるようなサックス演奏ができなければ、じきにクビになってしまいます。私は必死になって考え、イメージしました。譜面からどんな音楽を創り上げるべきか?バンマスが望む音は?その上で、私ならではの演奏は?(人と同じようなありきたりな演奏をしていたら、いつでも交代させられてしまうと考えていました)
どんな楽曲でも対応できる!
そんな環境の中、約十年ほど演奏活動を続けた結果、私はかなり幅広いスタイルの楽曲の演奏に、対応できるようになっていました。もちろん、ジャズは大変に幅の広い音楽ですから、時にはこれは私には演奏不能だというものもあります。それでも、たいていの楽曲について、譜面を見せられただけで、楽曲のスタイル、雰囲気がイメージできるようになったのです。
つい最近、そうやって身に着けた技能が大変に有用であることが実感できました。今年(2017年)10月、NYで活躍するスイス人ピアニスト、クロード・ディアロと、デュエットで共演することとなりました。この際、お互いの自作曲(オリジナル)でステージを構成しようという事になったのです。
オリジナル曲ですから、もちろんどんな曲なのか知りません。事前にどんな曲なのか、耳で聞いて確認することは困難ですし、仮にYoutube等で音源があっても、デュエットで演奏するとどうなるかなんて、事前に確認しようがないのです。結局、譜面だけを頼りに、お互いに音を聴かせあいながら、ほぼゼロの状態から音楽を即興で創り上げていくこととなります。
結果的には、デュオ演奏は大成功しました。クロードと私、お互いの自作曲の演奏を大いに楽しみました。その際の映像がこれです!
これは私の作曲した曲ですが、クロードの作品についても、私自身大いに演奏を楽しみました。あまり言葉も通じない中、譜面とお互いの音だけを頼りに音楽を創り上げる・・。音楽って素晴らしいなあと再確認すると同時に、自分が積み上げてきたジャズ修行が、ある意味正しかったのだと実感できたことは私にとって大きな自信になりました。
私は現在、鈴木サキソフォンスクールを経営していますが、新しい、誰もやっていないような企画を考え出し、実行するのが好きです。うまい具合に実行できて、関わりを持っていただいた方々、皆が笑顔になる瞬間がたまらなく大好きなのです。
こういった未知なるものごとへ挑戦する習慣は、ひょっとしたら、ジャズ演奏で初めて演奏する楽曲に挑み続けた結果、得られたのかもしれません。音楽って人生と似ているなあとつくづく思いますね。
今回はこの辺りにしたいと思います。続きはまた次回に・・。