サックスのプロになる!②

前回のブログでは、まだ大学生だったにもかかわらず、ステージに上がる仕事の依頼を受けたところまで書きました。とにかく楽器(テナーサックス)を持って、何月何日にどこどこへ行くように、ということで、事前に地図で現地を確認しつつ(当時はスマホなんてありませんから)、向かいました。

とにかく吹くしかない!

到着してみると、そこは完全なナイトクラブ、その中でもいわゆるホ○トクラブでした。たしか、夜8時から深夜0時くらいまでの時間帯に30分のステージを4回、というようなスケジュールだったと記憶しています。一緒にステージに上がったミュージシャン(もちろん初対面)に、「客席の方は見ない方が良いよ」と忠告されたのですが、演奏が始まってから、すぐのその意味が理解できました。その時間帯のホ○トクラブの客は、ほとんどがかなりのお姉さまというか、高齢者というか、マダムというか、確かに絵的に見てはいけない感じが理解できました(汗)。

まあそれは置いておいて、とにかくステージに上がると、何冊かのポピュラーミュージック楽曲集の本がおいてあり、バンマスが曲が終わるたびに、「次は○○(曲集の名前)の何ページ」みたいな感じで、曲を指示していきます。もちろん事前には決まっていないので、ページを開いてから、初めてみる楽譜を次々演奏していくこととなります。これが大変きつかったのです!

いやでも譜面に慣れてくる

まず大変だったのが、テナーサックス(サクソフォン)は移調楽器と言って、通常のピアノの音とは、一音ずれた音の譜面を見て演奏します。ですから、例えばジャズビッグバンド等、事前の編曲、アレンジが施された楽曲を演奏する際には、テナーサックス用に書き直してある譜面を見て演奏します。しかしこのステージでは他の楽器の奏者と、全く同じ譜面、つまりテナーサックス用に書き直していない譜面を、読み替えながら演奏することになります。実は、これがプロの世界の常識だったのです。

撮影、越野龍彦氏

もちろん、そのような状況になる事を想定はしていたのですが、読み替える事が不慣れな上、演奏する曲もほとんど知らない曲ばかりだった為、大いに苦労することになったのです。

今になってみれば、その時に演奏していたのは、ポピュラーミュージック、映画音楽の名曲ラテンミュージックの流行歌ばかりで、今の自分ならほとんど覚えているような楽曲ばかりです。しかし、当時の私、鈴木学は二十歳そこそこでしたから、妙齢のお姉さま方の青春の思い出の名曲など、聴いたことがあるはずもありません。ほとんどの曲を知らない上に、全て初見で演奏することとなり、冷や汗をかきまくりまくりながらも、何とかステージを終えることができました。

次第に根性が座る!

バブル経済絶頂期の当時、先輩バンドマンの皆様は大忙しだったようで、その後も次から次へと、同様のトラの仕事(エキストラ、つまり代役)をいただけました。この頃、私が学んだのは、楽器をマスターするには、とにかくステージに上がり、人前で演奏するのが、最善の方法であるという事です。実際、この時期の私自身、訳も分からずステージに上がり続けることで、何時の間にか楽譜の読み替えにも慣れ、自然に様々なメロディーを記憶していましたから・・。

そんなある日、たまたま3日連続で、同じハコ(お店)のトラに出向いた際、3日目の最終ステージを終えた後、先輩バンドマンから「終わってから言うのもなんだけど、君なかなか筋が良いよ」と、声をかけて下さりました。とても嬉しかったのと同時に、それまでに他の先輩からもお褒めの言葉をいただけていたこともあり、漠然と「サックスのプロとして生きていきたいな」と願うようになっていました。(次回に続く